専門家によるコラム:メタン排出とエネルギー産業:主要国の規制動向とLNG輸入大国・日本に期待する役割
メタンに関して、覚えてもらいたい3つのこと。(3 key facts about methane)
二酸化炭素の25倍以上の温室効果を持つガスで増加の一途を辿っている。
石油・ガス、石炭採掘に関わるエネルギー産業が4割近く排出。その7割は既存の技術で削減可能。
メタンの排出規制は欧州が各国をリードしている。世界有数のLNG輸入国である日本としての役割が今後のメタン排出を左右する
KSI.では2023年より「多排出セクターにおける企業のトランジション計画策定状況調査」を行っている。石油セクターの調査レポートでは、メタン排出削減目標についても取り上げられているなかで、今回のコラムでは、あまり大きく議論はされていないが重要なメタンについて取り上げる。
メタンと排出量
メタンは日本ではガスコンロから料理などに使用されている都市ガスでお馴染みだが、その98%はオーストラリア、マレーシア、ロシア、米国など海外から輸入している。メタンは温室効果ガスの一つであり、二酸化炭素に比べ25倍以上もの威力を持っている。メタンの排出量は年々増加傾向にあり、他の温室効果ガスより増加のスピードが早まっている。人間活動に由来する排出と、また温暖化してしまった自然界からの排出にわけられ、世界で早急な削減が求められている。
図 1 メタン排出量と成長率
出所:NOAA GML
人間活動に由来するメタン排出は大きく分けて三つあり、農業、エネルギー、そして廃棄物である。このコラムではエネルギーに注目して解説を進めていく。
エネルギーセクターは世界の人間活動に関わるメタン排出量の35%を占めている。排出の8割が石油・ガスの採掘時、および石炭の採掘時の上流である。石油・ガスの上流では、主にベンティング(メタンを排出せずにそのまま大気中に放出すること)とフレアリング(メタンを燃焼させること)から排出がされる。石油を採掘する際には、天然ガスが副産物として同時に発生する。本来エネルギー資源として利用できるが、回収・輸送のためのパイプラインが整っていない、あるいは経済的に見合わない場合、処理に困ることになる。そこで行われるのが、ガスを燃やさずにそのまま大気中に放出する「ベンティング」である。これはコストや設備の制約から選ばれる措置だが、メタンを直接放出するため、気候変動への影響は非常に大きい。一方、安全確保のためにガスを燃焼処理する方法が「フレアリング」である。理論上はメタンを二酸化炭素に変換できるものの、設備が老朽化していたり、燃焼が不完全であったりすると、結果としてメタンが漏洩するケースも少なくない。(参照:BNEF)。
図 2 人間活動によるメタン排出元
出所:IEA (2025), Methane emissions from human activity by main sources, IEA, Paris https://www.iea.org/data-and-statistics/charts/methane-emissions-from-human-activity-by-main-sources, Licence: CC BY 4.0
国別の排出量では、中国が最も多く、それに次いで米国、ロシアと続く。中国では石炭からの排出が多いのに対し、米国では石油・ガスからの排出が多い。石油・ガスからの排出に注目すると、米国が世界で最も多い。
図 3 化石燃料起源の国別メタン排出量と上流に占める割合
出所:IEA (2025) データより筆者作成, Methane emissions from the fossil fuel sector and upstream methane intensity for selected producers, 2024, IEA, Paris https://www.iea.org/data-and-statistics/charts/methane-emissions-from-the-fossil-fuel-sector-and-upstream-methane-intensity-for-selected-producers-2024, Licence: CC BY 4.0
排出削減方法
化石燃料起源のメタン排出は既存技術にて7割削減が可能とIEAが分析している。主な削減方法としては、漏洩を検知・修理をすることであり、これらは導入後1年でペイできる場合もある。
図4 メタンの削減
出所:IEA (2024), Opportunities to reduce methane emissions in the energy sector, 2024, IEA, Paris https://www.iea.org/data-and-statistics/charts/opportunities-to-reduce-methane-emissions-in-the-energy-sector-2024, Licence: CC BY 4.0
このような削減策の導入が進まない要因として、企業側が漏洩や事の重大さに気づいていないケースや、導入可能な機器について知らないといったケースが多いとIEAは指摘している。
前述のKSIの石油・ガスセクター移行計画調査レポートでは、日本の大手石油企業と海外オイルメジャーのメタン排出削減目標の設定状況と対策についてまとめているが、海外オイルメジャーは特に先端技術を用いた漏洩検知や測定強化を進めているようである。
規制の導入状況
メタン排出の増加を受けて、2021年COP26にてグローバル・メタン・プレッジが発足された。人間活動から排出されるメタン排出を2030年までに2020年比で3割削減とする目標を設定。加盟国は150カ国以上となり、石油・ガスからのメタン排出量の8割をカバーしている。日本は2021年の発足時からの創設メンバーの1カ国であり模範を見せる立場にある。
以下、主要国の規制を紹介する。
欧州
2024年8月に『メタン規則』が締結された。影響を受ける企業は石油・ガス、石炭採掘に加え、輸入業者も該当する。これらの企業は計測、報告、検証をすることが義務付けられる。さらに、石油・ガス企業は欧州内のメタンの漏洩箇所を探し、適切な修理を行うことが求められている。一方、輸入業者は2025年5月から石油、ガス、石炭の輸入量、輸入元の報告義務が課されており、2027年1月からは監視、報告、検証の義務が追加される。さらに、2028年8月からはメタン原単位を報告する義務が、最終的には2030年8月からは欧州委員会の定める規制値を下回る必要がある。規制値はまだ定められていない。
米国
バイデン政権下の2024年に制定されたメタン排出規制を、トランプ政権下の環境保護庁が18ヶ月延長することを決定。石油・ガス産業は2027年1月まで猶予期間となった。
石油およびガス事業者に対し、生産・輸送・貯蔵でのメタンの漏洩削減のための機器導入に対し、13.6億ドルの財務的および技術的サポートを施す予定だった。また、特定の排出量を超えるエネルギー生産者に対して、メタン一トンあたり最高1500米ドルを課金予定であった。
カナダ
国のメタン削減目標値は2030年までに2020年比で35%である。一方、国内で約5割を占める石油・ガス業界からのメタン排出を2030年までに2012年比72%削減することとした(2025年12月)。同年11月COP30にて化石燃料からのメタン排出をゼロに限りなく近く削減することに英国、日本、他8カ国と共にコミットしている。
中国
2023年11月、『メタン排出削減行動計画』を発表。メタンの計測、報告、検証を2030年にかけて行っていくこととした。監視に関してはドローンや衛星などの技術も用いることが明記。報告に関してはメタンの算出報告基準の標準化を行う。エネルギー産業では、漏洩検出、修理技術(LDAR: Leak Detection and Repair)を促進させることが明記されている。2024年12月に石炭炭鉱から排出されるメタンに関して、新規および既設の炭鉱も範囲として規制強化がされた。炭鉱から8%以上、もしくは集約度1分間に10m3以上メタンが排出される場合は、ガスを削減する必要がある。新規炭鉱は2025年4月以降、既設は2027年4月までに従う必要がある。
日本
地球温暖化対策計画が2025年2月に改訂された。メタンは2030年までに2013年比で11%、2040年までに2013年比25%減という削減目標である。日本におけるメタン排出削減は、水田からの排出(4割)や廃棄物からの排出抑制が中心である。一方、日本は中国に次ぐ世界第2位のLNG輸入国であるが、欧州のような輸入業者への報告規制などは設けていない。
日本に期待される取組み
一方、日本企業と韓国企業とが自主的にLNGのサプライチェーンでのメタン排出削減と透明性確保を目的として、ネットゼロに向けたLNGからのメタン排出削減のための連携(CLEAN: Coalition for LNG Emission Abatement toward Net-zero)を発表。このCLEANプロジェクトはJOGMEC(エネルギー金属鉱物資源機構)が、JERA、KOGASなど、日韓の27のグループメンバー企業の供給元に質問状を出し、結果を集約、分析して毎年レポートを発行している。そのカバレッジは、世界のLNGトレーディング量の4割を超えている。しかしながら、レポート結果としては、メタン原単位などの指標は標準化が難しく、プロジェクト単位でのベストプラクティスの公表にとどまっている。メタン原単位とは、メタン排出量を石油およびガス生産量で割った値であり、メタン排出を測る一つの指標であるが、プロジェクトから排出されるメタンのバリューチェーンをどこまで含めるかなどまだ標準が定まっていない。算定・計測方法、報告ガイドラインなど、メタン原単位の指標化には前提条件の透明性を高めること、及び、算定・計測方法の標準化が必要となる。
今後、メタン排出の削減には各国による規制や、削減対策のための経済的措置の導入が重要になる。日本などの輸入国は供給側の企業や国に対し、透明性を高めることを働きかけたり、或いはメタン原単位を標準化することにおけるリーダーシップを取ることを期待したい。標準化がされれば、輸入国としてプロジェクトごとの排出原単位を比較し、具体的な排出量削減のアクションを起こすことが可能となる。プロジェクトに直接投資している輸入企業は早急に対策を取ることが求められる。そうすることで、輸入国として世界全体のメタン削減に大きく貢献することが可能となるからだ。
執筆者:KSI.理事 黒﨑美穂
2007年から気候変動とESG分野での調査業務に従事。2009年にブルームバーグのESGプラットフォームの立ち上げを行い、2015年よりブルームバーグの気候変動リサーチ部門BNEFにて日本のエネルギー分野の分析を統括。また、有識者として日本政府の委員会や検討会で委員を歴任。2025年1月まで気候テックベンチャーキャピタル、Energy Impact Partnersに勤務。現在は香港在住。慶應義塾大学経済学部卒。Imperial College London 環境ビジネス修士号取得。