斬新なアイディアで、ファッション業界の課題解決を。2021年ファイナリストをインタビュー

今冬より一般社団法人鎌倉サステナビリティ研究所(KSI)は、イギリス・ロンドン芸術大学のCentre for Sustainable Fashion(CSF)が主催するサステナブルファッションに関する教育プログラム「Fashion Values(ファッション・バリュー)」の日本支部として活動を開始します。

Fashion Valuesは、CSFがKeringやIBM、Vogue Businessと共同で開発した、無料でアクセスできるサステナビリティに関する教育プログラムです。このプログラムの2022年のテーマは「ファッションと社会との関係」。これまでファッション業界が社会に影響を与えてきたインパクトを紐解きながら、これからのファッションと社会のつながりを考えます。

今回は、昨年のファイナリストである「Future Wardrobe Collective」のメンバー Catherine Eualeさんに、プロジェクトについてや活動に対する想い、そしてキャサリンさんが考える「サステナビリティ」とは何かをインタビューしました。


多彩なアイディアを形にするファイナリストたち

昨年のFashion Values Challengeでは、「Nature(自然)」をテーマに、海藻から新素材を開発する「Future Wardrobe Collective」や、フィリピンの地域社会と協力し、不要となった古着を再生可能な手織りの生地を用いてアップサイクルに取り組むファッションビジネス「Kinabuhi」、ユーザーが互いに新しい着用方法を提供し合えるファッションメディアプラットフォーム「ECCE ‘Second Nature’」が受賞しました。

by Future Wardrobe Collective

by Kinabuhi: New life through modern weaves 

by ECCE ‘Second Nature’


今回は「Future Wardrobe Collective」のメンバー Catherine Eualeさんにプロジェクトについて詳しくお話を伺いました。

Q. このプロジェクトを立ち上げようと思ったきっかけは何ですか?

私たちは自然からインスピレーションを受け、感動すると同時に挑戦を受けていると思っています。 また、私たちは人間と人間以外のものとの間での共生的な協働—「シンビオセン(共生新世。人間が人間以外の生命体と共存する時代を指すことが多い)」—に焦点を当てたいので、生態系との取り組みにとてもこだわっています。

Future Wardrobeを立ち上げた時、私たちの目的は、テキスタイルやファッション産業における有害な不正行為に対抗することでした。そこでは、資源を過剰に取り出し、有毒な廃棄化学物質やマテリアルを処分し、人や地球、生物に関係なく最終的に廃棄される商品の過剰消費を助長しているため、汚染が蔓延しています。

デザイナーとして、まず私たちは人間と人間以外の生物の両方のニーズを満たし、地球のデザイン思考を考慮する責任があると考えています。

私たちの目的は、ワードローブに新しく、予期しない思いやりのある関係を作り、大小を問わず生物との関係を再考する機会についての意識を高めることです。


Q. 3人でチームを組むことになった経緯を教えてください。

このプロジェクトのメンバーであるソーラ、ララ、ジェス、キャサリンはそれぞれの分野の専門家であり、建築、生物学、アート、テキスタイル デザインなど、さまざまなバックグラウンドを持っています。 そして、私たちはアーティストやデザイナー、ストーリーテラー、研究者という学際的かつ国際的な集団でもあります。

私たちには、地球を第一に考えたデザインの実践、素材の研究、教育、視聴覚ストーリーテリング、インタラクティブなインスタレーションを通して、人間と人間以外の自然との間の新しい有意義なつながりに取り組むという一貫した目標があります。 2019 年には、毎年恒例の「MIT BioSummit」に出展し藻類ベースのプロジェクトを実施しました。そして、アイデアを融合させ「Future Wardrobe (または Algal Allies) 」のプロジェクトを作っていきました。

Q. プロジェクトを立ち上げたことで、周りの反応はいかがでしたか?

このプロジェクトは多くの人から注目されています。欧州委員会のワース・パートナーシップ・プロジェクト(Worth Partnership Project)から受けた助成金により、この科学とアートが融合したファッションのカプセル・コレクションを実現し、昆布由来の素材が機械的・物理的特性に関して実際に何ができるかを紹介することができました。
このプロジェクトは、私たちと素材との関係や、天然素材の見た目や感触に対する先入観を見直すきっかけを与えてくれると思っています。


WORTH Partnership Project(https://worth-partnership.ec.europa.eu/projects/future-wardrobe_en)

 

Source: Pexels

 

Q.実際にプロジェクトを立ち上げてから、困難はありましたか?

このプロジェクトで大規模な実験プロセスを中断した主な理由は、資金調達です。しかし、私たちは今でも藻類由来のバイオプラスチックに関するワークショップを開催し、独立したアーティストやデザイナーと協力して私たちの研究に基づく素材を作っています。また、この素材をテキスタイル以外の産業にも活用できるようにプロセスをオープンソース化しています。

このプロジェクトにはほとんど資金がありませんが、オープンソースのコラボレーションや学際的な交流によってコミュニティを拡大し、この素材に積極的に取り組み続けることができています。

 

Q. プロジェクトを通して、どのような気づきがありましたか?

最近の9カ月間の開発期間では、カプセルコレクションを実現するため、素材を向上させることに集中し、縫製や防水などの技術を開発していきました。

例えば、海藻ポリマーの疎水性を活かすため、レインコートを作ることになりました。できるだけ無駄を省いた形にし、縫い目を補強するためにイラクサの繊維を加え、天然の複合材を作ることで生地を強化しました。

そして、糸を紡ぎ、織るための特注の機械を設計・製作し、美しいタペストリーのパターンを使ってボディを作り上げました。

by Future Wardrobe Collective

by Future Wardrobe Collective

Q.キャサリンさんにとって、サステナビリティや社会正義とは何だと思いますか?

私たちは、生命とは秀でた自律的なプロセスであり、それ自身を修復し、維持し、再創造していくものだと認識しています。サステナブルデザインを通して、私たちは「自然の恵みと多様性を維持するために、自然を繁栄させ促進させるような生命のネットワークをサポートするために、私たちは何ができるか」を問う必要があります。

これは、人々とのコラボレーションを意味し、私たちはプロジェクトの意図や美学よりも、デザインのコミュニティへの影響を優先して活動しています。

また、私たちは異なる分野の専門家たちと共に仕事をしています。私たちは、誰もが自分の生活体験に基づいた専門家であり、デザインプロセスに対してユニークで素晴らしい貢献ができると信じています。そして、誰もが安価な機器や材料を使って私たちが作ってきたプロセスを自宅で簡単に再現し、地元の資源を使って自由に実験することができるように、アクセシビリティやオープンソース化されたプロジェクトであることを大切にしています。

 

Source: pexels

 

Q. 今後どのような活動をしていきたいですか? 

私たちは、バイオプラスチックやその潜在的な用途に興味を持つあらゆる人々とパートナーシップを結びたいと考えています。プロセスをクリーンでシンプル、そして市民科学にとってアクセスしやすいものであり続けたいと考えているので、私たちが素材をDIYする上での性質はこのタスクの重要な要素です。

私たちは、科学者、生態学者、アーティスト、メーカー、デザイナーと協力して、プラスチック汚染、水域の富栄養化、藻類の繁殖、きれいな水の不足が問題となっている地域で活動したいと考えています。例えば、実際にプエルトリコやコロンビアの博士課程学生との共同研究を行っています。私たちは、有害な汚染物質を含まない、よりクリーンな素材を普及させ、水域を保護したいと考えています。

私たちが開発するバイオプラスチック素材は、現在生分解性の電子機器(Electric Skin)や宇宙での微細藻類の生分解性栽培袋(NASA minds)に使用されています。また、メキシコ、プエルトリコ、米国フロリダ州で生態学的な問題となっているサルオガセ昆布から原料を抽出する方法を模索しています。

産業用として成立させるためには、最高の技術的性能と、長期間の着用と性能に耐えられるような素材にすることが必要です。

この二面性を満たすことが現在の課題ですが、多分野の専門家からなる大きなコミュニティによって、私たちは本当に素晴らしい発見と新しい応用を実現しています。

By Future Wardrobe Collective


今回は、Future Wardrobeの斬新なアイディアが生まれた背景のみならず、具体的なプロジェクトのプロセスや実際に直面した困難についてお話を伺いました。新しい素材開発には長い年月と絶え間ない努力が必要ですが、Future Wardrobeでは、科学者や生態学者、アーティストなどさまざまな領域の人たちと協力しながら歩みを進めている姿が印象的でした。素材開発を通して自然と共存する社会を目指すFuture Wardrobeの今後の活躍が楽しみですね。

Future Wardrobe Collectiveについてもっと知りたい方はこちら!
Instagram @future.wardrobe.project
BioBabes https://www.biobabes.co.uk
Catherine Euale instagram: @slimy_futures
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Future Wardrobe Living Symbiotic Wearables / WORTH Partnership Project

 

ライター:小澤茉莉(KSIメンバー)
一般社団法人TSUNAGU理事。東京工業大学環境・社会理工学院修士課程在籍。現在大学院で文化人類学の視点からシルクをテーマに人間・生物・科学技術の関係を研究。一般社団法人TSUNAGUではこれまで藍染めや草木染めを中心に日本の伝統文化に関する講演やワークショップ等を実施。また、ライターとしてウェブメディア「IDEAS FOR GOOD」や紙媒体などで活動している。