ケーススタディ

以下に、デザインがイシュー、アジェンダ、コンテクストに関連した問題を解決した12のケーススタディを紹介します。持続可能性のためのファッションデザインは、様々な創造的な(クリエイティブな)成果によって実現され得ます。みなさんの習慣や、仕事、アイデア、個人的な興味とリンクしたり、交差する可能性のある4つのテーマを選びました。

デザインから、社会的または文化的変化、新しいビジネスモデルや素材のイノベーションにどのようにアプローチするかを考えるのは難しく、気が引けてしま(と思われるかもしれません。以下で紹介するケーススタディは、持続不可能な習慣を好ましいありかたに転換する力を示すとともに、ファッション業界のさまざまな分野における持続可能なデザインについて、いくつかのインスピレーションと洞察力を与えてくれます。

■素材

Stella McCartney - 再生カシミア(2015):カシミアの需要急増によるモンゴルの砂漠化への懸念の高まりを受け、Stella McCartneyはRe.Verso™と呼ばれる再生カシミア糸の使用を開始しました。この生地はイタリアで工場製造後の廃棄物から作られており、バージンカシミアに比べて環境負荷を92%削減しています。

132.5 Issey Miyake – リサイクルPET糸:日本人ファッションデザイナーIssey Miyakeは、リサイクルPET(ポリエチレンテレフタレート)の糸を使用した先駆者の一人で、2010年に132.5ラインを生み出しました。Miyakeの、東京を拠点とする“Reality lab”で開発されたこの糸から作られたポリエステル生地は、石油系ポリエステルの生産に比べて80%CO2排出を削減しました。

Zero by Maria Cornejo – エコドレープ(SS/17 catwalk): ビスコースは、ニューヨークを拠点とするデザイナーの春夏コレクションで最も人気のある生地でした。森林伐採に伴う繊維の環境への影響を軽減する取り組みの中で、Mariaは“エコドレープ”というより持続可能なビスコースを開発しました。エコドレープは、スウェーデンのドムショにあるエシカルな森林から採取した木材パルプを使用しており、その加工工程では、禁止されている化学物質を必要としません。

■ビジネスモデル

Bethany Williams – Breadlineコレクション (AW/16): ロンドンを拠点に活躍する新進デザイナーでロンドン・カレッジ・オブ・ファッションのメンズウェア修士課程を修了したBethanyは、その社会的にイノベイティブなビジネスモデルと持続可能な服作りの実践において、創造性を発揮しています。彼女の「Breadline」コレクションは、イギリスのスーパーマーケット大手Tescoおよび彼女の地元のフードバンクとコラボレーションし、Tescoとフードバンクから出た廃棄物から作られた衣服を使用しています。コミュニティや慈善団体とのコラボレーションを通じて、彼女は伝統的な手仕事による織物、プリント、ニット、刺繍などの素材を開発しました。彼女の目的は、英国における「隠れた飢餓- hidden hunger」の危機を浮き彫りにし、その解決策を見つけることでした。Bethanyは、ファッションを通じて社会の変革を目指すデザイナーです。最近のプロジェクトでは、女性の囚人や薬物中毒から回復中の人々がプロの裁縫師になるための訓練を行っています。

Soko – 衣料品製造:ケニアのルキンガ野生生物保護区に拠点を置く衣料品製造ユニットであるSokoは、環境への害を最小限に抑えながら、社会へのプラスの影響を生み出すことにコミットした独立した工場で、裁断、縫製、装飾のサービスを提供しています。この工場は、地域で最も貧しく、最も苦しい状況にあるコミュニティの一つを支援し、保育支援、医療支援、温かい食事のある雇用環境を提供しています。Sokoは、社会と環境の原則を守る自立した製造ビジネスのかたちと言えます。

Christopher Raeburn – REMADE: ロンドンを拠点に活動するChristopherのREMADEコレクションは2001年に発表され、古いパラシュートシルクやアーミーコートなどの余剰生地を再利用してユニークな作品を生み出しています。アイテムを裁断・縫製をしているREMADEスタジオでは、地元のコミュニティに開かれたカスタマイズワークショップを開催し、スタジオの端材を使ってトートバッグやソフトトイなどの制作も行っています。

■行動変容

Selfridges – Better Buying: Selfridgesという英国の百貨店は、サステナブルでエシカルな選択を消費者にとってより簡単かつ明確にすることを目的に、「Better Buying」の商品ラベルとオンラインでの記事の発信を開始しました。現在の記事では、非オーガニックコットンの有害な影響やデニム生産における水の使用、地元での生産をサポートすることの価値について消費者に情報を提供しています。

Unmade – Co-design: 消費者がサイズや美的な好みに合わせてニット製品をカスタマイズできるオンライン技術を使用し、商品はその注文にあわせて一度だけ作られるようにすることで、ごみの最小化に取り組んでいます。この革新的なツールは、既製品を購入するという当たり前となっている行動に疑問を投げかけ、ユーザーが自分の実際のニーズや好みについて考えることを促しています。

Filippa K – Second hand in Stockholm:スウェーデンのブランドFilippa Kは、サーキュラー・エコノミーという新たなビジョンに着手するために、地元の中古品コレクターとコラボレーションしています。顧客は、使用済みのFilippa Kの衣類を、新しいアイテムを購入するためのバウチャー(クーポン券)と交換できます。そして、中古品は、ヴィンテージアクセサリーのコレクションやサンプル品とともに、割引価格で販売されています。

■キャンペーン

Gucci: 2017プレフォールキャンペーン:ラグジュアリーファッションに多様性がないという批判に応え、グッチは、美とスタイルのより包括的なアイデアを描くために、一連のキャンペーンのキャストをデザインしました。リゾート2017ファッションショーでは79歳の女優ヴァネッサ・レッドグレーヴを起用し、秋前(プレフォール)のキャンペーンでは60年代のノーザンソウルのカルチャーをベースにオールブラックのキャストを使用しました。また、最新の香水広告では、トランスジェンダーモデルのハリー・ナフを起用しています。

Vivienne Westwood - エシカル・アフリカバッグキャンペーン:Vivienne WestwoodとYooxとのコラボレーション「エシカル・アフリカ」を売り出すためにナイロビで撮影された写真には、アップサイクル素材を使ったバッグのコレクションを作る仕立屋と一緒にアイコニックな英国人デザイナーが写されています。2011年に撮影されたこの写真は、最も広く使われているデザイナーのコンテンポラリー写真のひとつで、彼女のパンクな伝統と現在の環境保護活動を結びつけています。

Burberry – Makers House: 2017年春夏のショーの後、バーバリーはロンドン中心部で1週間の「メイカーズハウス」を立ち上げ一般に公開しました。隠れがちな職人技のプロセスに光を当てた「イン・ザ・メイキング」ワークショップは、熟練された手仕事を間近で見せてくれました。来場者はワークショップに参加することで、ファッション作品の制作にかけられる労力を体験し理解することができました。

© University of the Arts London 2018